【課外実験】患者役オーディションで座っていただけなのに合格した話
冗談半分の応募が、最後は「思考の速さ」で決まった
2つ目の審査は実際のシーンの一部をみんなで演じる事に。
空を見上げる人々という場面。
助監督からの合図でみんなの演技が始まる。
みんなぽかーんと上を見上げている。
正直、何を演じればいいのか分からない。
そこで私は暇つぶしに勝手な妄想を始めた。
以下、完全に私の脳内である。
みんなが空を見上げている。
「なんだ!あれは~」
おじさんが叫ぶ。
すると周りも
「ナンダアレハ~」
と言い始めた。
私はその様子を見ながら、
「写真撮ってLINEするのが一番自然じゃないか?」
などと脳内で演技プランを考えていた。
しかし考えがまとまる前に審査は終わった。
大人たちが真顔で存在しない空を見上げる不思議な時間だった。
一体何を見られていたんだろう?
そんな疑問がよぎる中、次の審査の説明が始まった。
オーディション3つ目は5分間、会場を自由に使って、
精神病棟の患者役を演じて下さいというものだった。
さっと会場を見渡す。机、椅子、そして廊下。
まず思った事は、5分長げーなだった。
今までの審査でかなり疲れている。なるべく楽に終えたい。
私は椅子に目をつけた。
5分間椅子に座りたいと思った。
是非ともそうしたい。固く心に誓った。
そして助監督の合図で演技が始まる。
みんなそれぞれの役柄になりきり、思い思いに会場を歩き始める。
私には5分間も徘徊する体力はない。
真っ平御免だ。
5分。
長い。
患者になる前に、
私自身が疲労でくたくただった。
真っ直ぐ椅子を目指す。
すると横に同じく椅子を目指しているであろうおじさんがいる。
さっきの審査で私の脳内で「ナンダアレハ~」と言っていたおじさんだ。
疲労の色が隠せない。
目が合った。
分かる。
あの人も椅子を狙っている。
椅子をめぐるデッドヒート。
しかし私たちは患者役、そんなに早く歩く訳にはいかない。
必死のせめぎ合い、競歩のような感覚。
僅差で私が椅子に座る。
ふ~。
大人の椅子取りゲームは私が勝ったようだ。
オーディション開始30秒。
私の中ではもう終わっていた。
あとは助監督の「カット」の合図を待つだけである。
そのまま合図があるまで1点を見つめ、椅子に座る。
周りではみんながそれぞれの役を演じている。
私以外は。
左では歩いている音がする。
右では立っている人の気配がする。
正面にはさっきのナンダアレハおじさんが額から汗を滴らせながら、だらだらと動き回っていた。
カットがかかり、助監督の周りに集められた。
そこで助監督からみんなに質問。
「どんな気持ちで演技をされていましたか?」
やばい、今日2度目のキラーパス。この助監督容赦ない。
頭の中に数匹のハムスターが走り回る。どうする、どう切り抜ける。
まさか疲れて座りたかったとは言えない。
う~ん、考える、考える。
するとチーン。
答えが降ってきた。
「わたしは以前うつになった事があります。その時、体は元気だけど心が動けない状態を感じました。今回、椅子に座っていましたがすぐ後ろで誰かが倒れても心が動かないんです。そんな患者の心を表現しました。」
やばい、詐欺師になれるんじゃないかと思えるくらい完璧な答えだった。
会社でも何度も詰められるたびに機転を利かせてさっと避ける。
そんな経験が今、活きてます。
ありがとう鬼上司。
2週間後。
妻のメールに患者役合格の通知が届いた。
妻と息子は落選。
家族で応募したのに、
なぜか患者役だけ受かってしまった。
風呂上がりのパジャマ写真から始まり、
オーディションでは椅子に座っていただけ。
それでも合格した。
映画の世界はよく分からない。
ただ一つ分かったことがある。
どうやら私には、
患者としての適性があったらしい。
人生、どこで才能が見つかるか分からない。
そして迎えた撮影当日。
この時はまだ知らなかった……。
数秒しか映らないはずのエキストラ体験が、
数年経っても家族で笑う思い出になることを。
(第3話へ続く)
次回、撮影編です。
登録してお待ちいただけると嬉しいです。





ただただ座っていた(笑)という絶妙な演技と引き換えに、椅子取りゲームに負けたおじさんの末路がかわいそうでした(笑)
まだ続きがあるとは、これは楽しみです♪
凄く精神が削られる勢いで
疲れる場面でしたね💦
合格!
3話がますます楽しみです🙌